フライング
予想する上で重要な要素の一つ「フライング」
勝負した結果であり、個人的にはスタートで後手を踏むよりマシだと思いますが、選手にとって厳しいペナルティがあります。
この記事ではペナルティの詳細や、レースに与える影響などを解説しています。
フライング制度の基本
競艇(ボートレース)ではスタートラインを1秒以内に通過する「フライングスタート方式」
スタートライン付近のことを「スリット」とも呼びます。
これはスタートタイミング判定時の「スリット写真」から。
1秒間に2千枚のスピードで「スリット(隙間)」から撮影した細い画像をつなぎ合わせ、大時計が0秒を指した瞬間のものです。
早くスタートラインを通過してしまうと「フライング(F)」
1秒以内に通過できなかった場合は「出遅れ(L)」となります。
F・Lは全額返還
F・L(スタート事故)をした艇にかかわる投票券は全額返還され、そのレースは欠場扱い。
1艇フライングした場合は3連単なら60通りの組み合わせが返還されるため、F艇以外で的中してもオッズが下がることになります。

令和2年度のスタート事故返還率は1.07%。
返還の過去最高額は約24億の宮島グラチャン優勝戦です。
販売総額の92.8%が返還となっています。
ボートレース公式サイトより引用
フライングの見方
F・Lは出走表に記載されています。
5・11月に期が変わるため、出走表のフライングはリセット。
出走表上ではF0でも実際はF持ちである状態を「隠れF」と言います。
期が変わって2カ月程度は注意が必要です。

フライングの発生率
2020年のフライング本数は約1270本。
一日当たり約3.5艇がフライングを切っています。
一番Fが多いのはインコース。
日程では勝負駆けとなる3・4日目辺りが多く、選手心理を反映した結果ですね。
ちなみに、スタート無事故の最高記録は宮島の712R連続が歴代1位となっています。
一方、出遅れは年間で50本程度と少なめ。
出遅れとなる「1秒以上」はスタート勘よりも、起こし時の回転不良などモーターの問題が大半です。
また、「浮遊物を巻き込んだ」「他艇から接触された」などの選手責任外もあります。
ペナルティ
スタート事故(フライング・出遅れ)は選手にとって厳しい罰則があります。
F | 期間 |
---|---|
1本目 | 30日間の休み |
2本目 | 60日間の休み |
3本目 | 90日間の休み |
4本目 | 選手会退会勧告 |
フライングを2本すると「30日+60日=90日」、3本目なら「計180日」とF本数とともに増加。
休みに入るタイミングは既に決まっているレース終了の翌日からで、正式には「出場辞退」
Fを切った時点でSGなどのビッグレース出場が決まっていればセーフですが、F休み期間中はSG出場権利を持っていても選出除外となります。
(グランプリ・クイーンズクライマックスは特例で出場可能)
ちなみにF4は過去に前例なし。
事故率オーバーとなり選手会から退会勧告が出るため、事実上は引退ですね。
SG・G1でのフライング罰則
売上の多い記念レースでは準優・優勝戦に追加の罰則が設けられています。
記念常連選手にとっては特に厳しい罰則と言え、優勝戦でスタートが揃ってイン逃げが多い要因の一つだと思います。
F・L | 欠場期間 |
---|---|
SG優勝戦 | SG:1年間除外 GⅠ・GⅡ:半年間除外 |
SG準優勝戦 | SG:4節除外 GⅠ・GⅡ:3ヶ月除外 |
GⅠ・GⅡ優勝戦 | GⅠ・GⅡ:半年間除外 |
GⅠ・GⅡ準優勝戦 | GⅠ・GⅡ:3ヶ月除外 |
※SGは既に斡旋が決まっていても取り消し
女子戦でのフライング罰則
女子戦の準優・優勝戦でも特別な罰則があります。
勝率を稼げる女子戦に出場できないのは痛手ということもあってか、フライング発生率は明らかに減少。
スタートが揃うことが多く、女子戦の準優・優勝戦ともにイン逃げ率は70%以上と高くなっています。
F | 欠場期間 |
---|---|
女子戦の準優勝戦 | 女子戦3ヶ月 |
女子戦の優勝戦 | 女子戦6ヶ月 |
非常識なF
「非常識なF」とはコンマ05以上のフライングのこと。
以前は即日帰郷となっていましたが、2022年5月より廃止。
1本につき「+5日間」に変更となっています。
F | 期間 |
---|---|
1本目 | 35日間の休み |
2本目 | 65日間の休み |
3本目 | 95日間の休み |
実際に複数艇がフライングする時はこのケースが多いです。
ちなみに下記のF.32は非常識なF制度の1位記録。
ボートレース公式サイトより引用
スタートの再訓練
愛知県碧南市にある訓練所で二泊三日のスタート再訓練があります。
- Fから90走以内のF
- 非常識なF
- 優勝戦のF
- SG・GⅠ・GⅡ準優勝戦のF
競艇場のローカルルール
フライングをして施行者に損害を与えた選手は、次回からその競艇場に斡旋されないケースも。
また、スタート事故防止強化期間や、連続無事故(20日以上)を達成した支部に対し表彰を行う制度もあります。
賞典除外
選手責任のスタート事故を起こした選手は「賞典除外」となります。
「賞典レース(準優勝戦・優勝戦・特別選抜戦)」などの賞金が高く設定されているレースから除外されることを指します。
準優勝戦が行われる日に2回走りで、1走目にFを切った場合は、準優を走ることは出来ますが優勝戦に進むことは出来ません。
そして、基本的に翌日からのレースは外枠(5・6コース)に組まれます。
事故点
フライングの事故点は1本につき20点(優勝戦は30点)
事故点の合計を出走回数で割ったものが「事故率」
無事故の出走回数が増えると事故率も下がっていきますが、期間の通算が「0.70」を超えるとB2級降格。
また、級別審査条件は「出走回数」の条件も決められています。
フライング3本目で180日休みになるため、出走回数・事故率により確実にB2級降格に。
また、勝率条件を満たしているA1級選手でも、フライングによる出走回数不足により降格することもあります。
級別審査条件
級 | 定率 | 条件 | 事故率 | 出走回数 |
---|---|---|---|---|
A1 | 20% | 2連対率30%以上・3連対率40%以上の勝率上位 | 0.70以下 | 90以上 |
A2 | 20% | 2連対率30%以上・3連対率40%以上 | 0.70以下 | 70以上 |
B1 | 50% | 勝率2.00以上 | 0.70以下 | 50以上 |
B2 | 10% | 上記以外の選手 | なし | なし |
フライングの影響
競艇のセオリーには「フライングを持っている選手はスタートが慎重になる」があります。
ボートレース公式サイトより引用
内側がF持ちの場合、カドからの攻めは初心者でも想定できると思います。
結果はF持ち選手が凹んでカドまくり決着。
ボートレース公式サイトより引用
もちろん機力や選手の力量によりますが、データ上ではF持ち選手全体の平均STは遅くなる傾向があります。
選手コメントでも「スタートが行けない」「分かるスタートを行く」などが多いですね。
ボートレース公式サイトより引用
ただし、他艇に合わせてスタートしたり、モーターの仕上がりによるので、節間のSTや選手コメントは確認しておきたいポイント。
F持ちでも勝負所なら踏み込む選手や、STよりも全速で行くことを重視するなど、選手次第の部分も大きいです。
また、同じ「F1」でも時期や条件によって微妙に違います。
F1でも休みを消化していない状態で2本目を切ってしまえば、連続して90日の休みになり「期(半年)の出走回数条件」を満たせない可能性が出てきます。
休みを消化したあとに最悪2本目を切っても斡旋がすでに入っているレースは出場できるので、期をまたいでクリアできる場合も。
また、期末(4・10月)のF持ち選手もスタートを控えることが多いので考慮しておきたいですね。
ボートレース公式サイトより引用
オッズへの影響
「F持ち」という情報はオッズにも影響を与えています。
機力・実力に差が無いと仮定して、内側3艇がF持ちだった場合は「1ー23」は買いづらく「4アタマや1ー4」が売れるのは当然ですね。
ボートレース公式サイトより引用
ただし、「F持ち」というだけで軽視されているケースもあり、期待値を考えて狙いたいところ。
出走表を見れば誰もが知り得る情報なので、オッズの歪みが発生することもあります。

ボートレース公式サイトより引用
F持ち選手の狙い目
早いスタートを決めた艇が有利なのは周知の通り。
1マークでの攻防の選択肢が増え、データ上でもスタート順位は成績に大きく影響しています。
選手や状況次第の部分は大きいものの、基本的にはF持ち選手の評価は少し下げて予想するのがベター。
ある程度のスタートが必要な「まくり」は減り、全体で見ると成績も低下します。
そんな中でも、比較的Fの影響が少ないのは2コース。
明らかにスリットで覗けば「まくり」選択もありますが、基本は「差し」がセオリー。
インよりスタートを先行すると「差し」に構えて待っている間に他艇の引き波にハメられたり、ハンドルの切りしろが少ないケースもあります。
スタートを先行してプレッシャーを与えることで、焦ったインが握り過ぎてターンマークを外す「差し」決着もありますが、個人的には2コースのF持ちは気にしないことが多いです。
イン逃げ時の「1ー2」も同様で、軽視されているなら狙い目。
2コースがF持ちというだけで「1ー3」が過剰人気になっているケースもあります。
ボートレース公式サイトより引用
「差し」は必ず引き波を超えるので出足・周り足の裏付けが欲しいところ。
「追い風」などの気象や、2コースが不利になる展開(インが差し警戒で溜めてターン、3コースがまくり差し選択、センターからの絞りまくりなど)も考慮して狙いたいですね。
F後の節間データ分析
取捨選択に迷うのが、節間にフライングを切った選手。
過去4年間の記念レース(SG・G1)で分析すると、やはり全体的な成績は低下傾向です。
STの中央値や平均値も低下しています。
コース | 回数 | 1着率 | 2・3着率 | 4-6着率 |
---|---|---|---|---|
1 | 20R | 57.9 | 31.6 | 10.5 |
2 | 40R | 13.5 | 18.9 | 67.6 |
3 | 25R | 20.0 | 36.0 | 44.0 |
4 | 95R | 6.4 | 35.1 | 58.5 |
5 | 180R | 2.8 | 25.0 | 72.2 |
6 | 700R | 2.0 | 26.5 | 71.5 |
※基本的に翌日からは外枠(5・6コース)に組まれるため、出走回数に偏りがあります。
内側コースは「前半にFを切って、後半に走る場合」の他に「F後も前付けでコースを取る選手」も含んでいますが、サンプルが少ないので参考値です。
1着率の低下はダッシュ(4・5コース)が顕著。
スタートが遅くなる影響が大きく、アタマ狙いはリスキーですね。
一方、インの1着率はやや低下しているものの、意外と逃げています。
一般戦ではF後のインは50%を下回っているので、選手レベルの差もあると思います。
2・3コースの三連対率は低下傾向ですが、サンプルが少ないので評価が難しいところ。
選手や機力次第ですね。
F後の選手は敬遠されてオッズが高くなることもあるので、機力次第では2・3着狙いも一考。
1着率が低下している分、ダッシュ(4~6コース)からの2・3着率は高め。
モーターが出過ぎていてフライングを切ってしまうことも多く、F後の2・3着付けで回収率100%を超えるケースもあります。
ボートレース公式サイトより引用
STは遅くなる傾向があるので、伸びよりも出足・まわり足重視。
展開を突ける足があるか見極めて狙いたいですね。
ボートレース公式サイトより引用
フライング制度の問題点
個人的に一番問題なのは「フライングした艇によってレースが壊れること」
インから買っていてフライングした選手のまくりに潰されても、返還されるのはFを切った選手のみは理不尽なルールです。
また、SG・GⅠでの厳しすぎるペナルティも見直してほしいところ。
施行者にとって返還は痛手ですが、記念常連選手がSG戦線を長期離脱する方がファンとしては残念。
人気選手の欠場は業界全体の売上にも響くはずですが、競艇場ごとに施行者が分かれている弊害に思えます。
仮にフライング返還が廃止になった場合
フライング返還を無くして失格扱いにすると、払戻金の低下が無くなるのがメリット。
SG・GⅠでの厳しすぎるペナルティも緩くなり、記念常連選手がSG戦線を長期離脱することもなくなります。
F艇の舟券は紙くずになってしまいますが、転覆や落水も返還はないので同じようなものと許容できる部分もあります。
ただし、返還なしになると八百長が出来てしまうのが問題。
西川のようにターンマークを外してぶっ飛ぶより、Fするだけで成立します。
返還が無くなればファン離れも起きそうなので現実的ではないですね。
過去にはフライング警報装置も存在
フライングを切った瞬間に選手が自覚して1マークまでに減速すれば、レースが壊れることは少なくなるはず。
過去には住之江にはフライング警報装置(FKS)、尼崎にはスタート感知システム(SKS)が導入されていました。
住之江(FKS)はフライングになるタイミングを自動計算してヘルメット内のスピーカーに警報するシステム。
尼崎(SKS)は練習時に自動的に入力されたタイミングを使用するシステムで、本番との誤差が問題だったようです。
警報が鳴るとアジャストしてレースの魅力が無くなることや、システム維持費、装置の重量で操縦感覚が変わるなどから2003年(尼崎は2006年)に廃止されています。
今の技術ならもっと上手に出来そうな気もしますが、一長一短ありそうですね。
ヘルメットのシールドにARでスピードや距離を表示して、全艇ゼロ台スタートが連発しても面白くないような気もします。
オートレースは再発走
オートレースでフライングが発生した場合は「再発走(スタートのやり直し)」
2回目以降に同じ選手がフライングすると失格となり車権は返還。
3回目で車体検査後に再発走、4回目でレース不成立となります。
ボートレースもこのルールならレースが壊れることもなく、F発生によるオッズの低下も減ります。
ただ、再発走になるとスタートが揃ってイン逃げ有利になる可能性が高く、一発勝負だからこその魅力もあるので難しいところ。
また、陸上競技のフライングが再発走から一発失格になったように、わざとフライングを切るという駆け引きに使われる可能性も。
ピット離れや前付けでコースを取られても、Fを切ってリセットできるとなると進入争いの緊張感は無くなりそうですね。
ピットからやり直す時間も問題になってくるので、個人的には優勝戦のみ再発走はアリだと思います。
韓国競艇のスタート
フライングが絶対に無いのは係留機を使用する「オンラインスタート」
ピットから同時にスタートする方式で、韓国競艇の一部レースで導入されています。
メリットはフライングが無くなることと、インの弱体化が期待できること。
スタートの比重が大きく、従来のスタートライン時点で大きく差がついているケースもあります。
ピット離れや伸び特化で勝負が決まりそうですね。
予想はスタート展示を見ればある程度絞れそうですが、ターン技術が日本と比べて圧倒的に差があるので成立している部分もあると思います。
個人的にはあまり面白いと思えませんが、日本で実験的に導入された場合の売り上げは気になりますね。